活動報告

 戦争をさせない石川の会が11月5日、近江町いちば館4階集会室で開いた講演会の講演要旨を紹介します。

「ウクライナ問題-消えないモヤモヤ感」

神戸大学名誉教授  ロニー・アレキサンダー

講師のロニー・アレキサンダーさん

 私は愛猫ポーポキとの仮想問答をとおして〝平和〟をずっと考えてきました。「平和って何色?」と質問すると、さまざまな答えが返ってきました。感性だから正解はないのです。そもそも平和を一つの色に限定することに無理があるのです。

 お互いに個性を尊重しあい、個々人が持っているものを発揮できる状態は、平和であればこそ。たとえ戦争がなくても、差別や貧困があれば、それは決して平和とは言えないのです。

 世界の平和運動は、実は困難が山積しています。米国の平和運動は元々まとまりにくい事情がありますし、「平和」をもたらす解決策も、非暴力平和主義から軍事力強硬論まで様々ですし、「制裁」を支持するか否かについても、容易に意見は一致しません。

 その間に、兵器産業や金融投機筋の収益はうなぎ上りとなっており、その一方で食料・燃料エネルギー・肥料など、脆弱性のある地域を中心に人類の生存を脅かす事態が進行し、それが女性、貧困層、労働者などにシワ寄せとなっています。この根底にある問題に目をつむるわけにはいきません。

 軍隊があるから戦争が起きるのです。真の平和な社会を築くためには、お互いの〝つながり〟が決め手です。それさえあれば社会の不条理に一緒に立ち向かうことが出来るのです。

 たしかに非暴力を貫くのは難しいです。しかし非暴力の土台をつくる努力を決して忘れてはなりません。

 若者たちには、自身に抜けている視点はないかを冷静に考えてほしい。そしてモヤモヤを共有することから出発できれば、何かが始まるのだと伝えたい。違う者同士の接点づくりの技術を身に着け、未来社会の平和の土壌づくりに本気で勤しんでほしいのです。

 9月5日、戦争をさせない石川の会は、安倍晋三元首相の「国葬」中止を求める声明を岸田文雄首相及び石川県政記者室に送りました。本会ホームページに紹介します。

【声明】

 内閣総理大臣  岸田文雄殿

       安倍晋三元首相の「国葬」中止を求めます

 私たちは、安倍晋三元首相の「国葬」実施について、以下4点の立場から反対の意志を表明するとともに、その中止を求めます。

1. 安倍氏の「国葬」は、法律の根拠を欠いている。

2. 安倍氏の「国葬」は、憲法上の権利である「法の下の平等」に反する。

3. 安倍氏の「国葬」は、国民に弔意を強制するものであり、憲法上の権利である「思想・良心の自由」に反する。

4. 安倍氏の「国葬」は、元首相としての「業績」を美化し、それを強制するものであり憲法上の権利である「表現の自由」に反する。

 

1. 現在、「国葬」について定めた法律はありません。岸田首相は、内閣府設置法上の内閣の所掌事務として「国の儀式」にあたると閣議決定で実施を決めました。国会の議決も経ずに「国葬」を決めるのは、立憲主義を破壊するものです。また、「国葬」には国費を充てるとしているが、国会の議決に基づかない行使は、財政民主主義をないがしろにするものです。

2. 岸田首相は安倍氏を「国葬」にする合理的理由を示していません。政権の思惑だけで特定の個人を「国葬」として特別扱いするのは、憲法が規定する平等原則に反するものです。

3. 安倍氏の「国葬」は、全国民にかわって国が安倍氏への弔意を表明することです。これは、国民一人ひとりに弔意を押しつけるものであり、憲法が定めた「思想・良心の自由の保障」に反するものです。

4. 安倍氏は首相として、戦後レジームの解消をとなえ、国家主義的・軍国主義的な政治姿勢が顕著で、教育基本法の「改正」、特定秘密保護法、共謀罪法、安保法制など、日本を再び戦争のできる国づくりを進めてきました。また、政治の私物化、ウソとごまかし、立憲主義の破壊などの政治手法、行政情報の改竄・隠蔽など不誠実な政治姿勢には多くの批判があります。「国葬」によって安倍氏の「業績」を美化することは、安倍政治に反対する声を殺ぐ作用をはたし、表現の自由に反するものです。

 2022年9月5日

                        戦争をさせない石川の会

                        共同代表:山村勝郎(元金沢星稜大学学長)

                         菅野昭夫(弁護士)

【戦争をさせない石川の会・講演会】

  ウクライナ侵攻から平和を考えるー世界史の順行と逆行ー

 名古屋大学名誉教授  池内 了  

            講師の池内 了さん

  池内了さん(名古屋大学名誉教授)の講演会が戦争をさせない石川の主催で7月31日、金沢歌劇座2階大集会室で開催されました。宇宙論の研究者である池内さんは、地球から見て火星の動きが順行と逆行を繰り返しているように見えるが、巨視的には惑星として共にJ順行している。世界史で、戦争と野蛮、非戦と戦争も順行と逆行を繰り返しているが、長期的には世界は変わっているとの基本的視点を展開されました。

 戦争の歴史で、科学技術の使用が進むに伴い、次々と残酷な手段を禁止する条約が成立した(ジュネーブ議定書、生物兵器禁止条約、化学兵器禁止条約)。戦争と平和の逆行と順行は、戦争の度に戦争に頼らないで紛争を解決する道を拓いてきた(国際連盟、国際連合)。この順行の流れの中で日本国憲法の平和主義が生まれ、日本が決して侵略国家にならない、平和の中で生きていくことを宣言した。

 戦後、大国間の戦争は回避されて来たが、軍事大国(米、ロ、中国)は、軍拡競争を牽引し多くの小国への侵略と威圧で、逆行の道を歩んでいる。しかし、核保有5カ国は、国際世論に追い詰められ「核戦争を防ぎ、軍拡競争と核の拡散を行わない」共同声明を出さざるを得なくなっている。

 ロシアのウクライナ侵略は、世界史の逆行であり、第3次世界大戦、核戦争、国連の限界を内包している。この行方には3つの方向(ロシア又はウクライナの敗北、ウクライナの停戦受け入れ=白旗)が想定されるが、多くの批判があるが白旗路線を考えている。それは、命に勝る正義なしとの立場からである。

 現在ウクライナにとって、国権主義か私権主義かが問われており、国家による戦争遂行の強制と基本的人権の対立軸は報道されていない。世界が採るべき方策は、国連総会決議を最高の意思決定として、安全保障理事会を上回る拘束力を持つ国連改革であり、ロシアとウクライナに即時停戦を説得する決議と核兵器先制使用禁止決議であろう。

 戦後、侵略をしない国として信頼を得て来た日本は、参議院選挙の結果、日本が侵略する国になりかねない危険が増している。

 自民党改憲案で自衛隊を軍隊と明記すると、一般刑法と別に軍事法廷や徴兵制の導入が想定される。大学や研究者が守ってきた「学術は軍事に協力しない」ことが崩されつつある。研究費の貧困を背景に、防衛省安全保障技術研究推進制度による軍事研究が行なわれている。経済安全保障法の下で軍事・機微技術の開発を国が管理する重要技術育成プログラム(5,000億円)は、4領域(宇宙、海洋、サイバー空間、バイオ)20分野の推進計画で、参加する研究者には守秘義務が課せられ、軍事研究を強める施策が進んでいる。

 これまでに成立した悪法により民主主義の根幹が危うくなっている。また若者への教育は貧弱で、政治的無関心が助長され、同調圧力や「空気を読む」雰囲気の中で、社会の一体化の共同幻想に陥り、私権の制限すら許容する傾向が見られる。これは、ファシズムに導かれる危険であることを知らなければならない。

 個々人の生命、生活、人権を確保することを最優先にして、平和を守る。軍事力に頼よれば、却って戦争の危険を増やす。私は「ピカソで平和を守る」と提唱している。文化の満ち溢れた社会にし、非武装都市宣言で平和を守る、そのためにも、慌てないで諦めずに粘り強く平和主義、国民主権、基本的人権の尊重を主張し続ける必要がある。

 講演後の質疑応答で、「科学が軍民共用(デュアルユース)であり、区別できないと考える教員が多い、その対応は?」との質問に、3つの基準(財源=防衛省か文科省か、応募の目的は何か、公開性が担保されているか)で区別することができると答えられた。

 

 戦争をさせない石川の会は、このたびのロシアによるウクライナへの侵略に深い憤りを持っており、ロシアの侵略に強く抗議するとともに、一刻も早く戦争を終結させるために岸田文雄首相が外交交渉による解決への努力をさらに強めるよう要請する声明を発表しました。内閣総理大臣宛に送付した声明文を掲載します。

 

内閣総理大臣  岸田文雄  殿

[声明]ロシアのウクライナ侵略に抗議し、岸田文雄首相に戦争終結の外交努力を求める

 ロシア軍のウクライナ侵略は国際法に違反する明確な犯罪行為です。ロシア軍の侵攻作戦はウクライナ各地で無差別攻撃となっており、子どもを含む民間人の死傷者は増え続けています。ゼレンスキー大統領が「大量虐殺」と非難し、3月11日に開かれた国連安全保障理事会の緊急会合では各国が戦争犯罪だと指摘しました。

 ロシア軍の原子力発電所への攻撃は、プーチン大統領が示唆する核兵器の使用に現実味をもたらしています。日本は世界で唯一つの被爆国であり、福島第一原子力発電所事故で核のもたらす甚大な被害とその危険性について身を持って経験しています。プーチン大統領とロシア軍の核をもてあそぶ行為は、人類の生存に対する挑戦であり強く非難します。

 「侵略やめよ」の国際世論と連帯行動は急速にわき起こっており、市民社会のロシア包囲網は日に日に高まっています。

 また、ウクライナは、ロシアがルハンスク及びドネツクにおいてジェノサイド行為が発生しているとの虚偽の主張を行い、ウクライナに対する軍事行動を行っているとして、ロシアを国際司法裁判所に提訴し、裁判所は、3月16日、ロシアに対して直ちに軍事作戦をやめ、また、軍隊や非正規部隊等が軍事作戦を更に進める行動をしないことを確保しなければならない、とする「暫定措置命令」を出しました。私たちはこの判断を強く支持するとともに、ロシアは直ちに無条件で撤退することを求めます。

 今このときも、ウクライナで多くの血が流れ市民は恐怖にさらされています。一刻も早く戦争を終わらせ平和を回復するには外交による解決が急がれます。広島出身の岸田文雄首相は、核被害の経験と憲法9条を持つ国として、ロシアの蛮行に歯止めをかける外交交渉を担える立場にあります。日本国民の反核と反戦の強い世論を背に世界の政治指導者を動かす先頭に立ち、戦争終結に導く努力に踏み出すよう強く求めます。

  2022年3月19日

                        戦争をさせない石川の会

講演要旨

「進む要塞化 琉球孤の今 ― 日米軍事化のはざまで」

沖縄タイムス編集局次長 阿部 岳

「辺野古に陸上自衛隊」を常駐

 2015年に陸上幕僚長・岩田清文陸将と在日米海兵隊司令官・ニコルソン中将が、辺野古新基地に陸上自衛隊(以下 陸自)の離島専門部隊「水陸機動団」を常駐することを極秘合意していたことを6年経った今、沖縄タイムスと共同通信の合同取材で明らかになった。この水陸機動団とは、「劣閣有事」を念頭に離島奪還を任務として2018年に創設した「日本版海兵隊」である。現在は650人規模の連隊が二つあり、2024年3月末までに三つ目の連隊を長崎に創設する。

 陸自は、水陸機動団の編成を検討し始めた2012年から連隊の一つを劣閣に近い沖縄に置くと決めていた。陸自幹部は、オスプレイと水陸両用車が使えて米海兵隊と合同訓練ができる辺野古新基地は「条件がそろっている」と述べている。

 一方、米海兵隊が陸自の水陸機動団を受け入れたのは、「カウンターパート」がほしいからだ。米4軍のうち他の3軍は中枢部隊が自衛隊と同居している。

 米陸軍=陸自/座間基地

    米海軍=海自/横須賀基地

    米空軍=空自/横田基地

 ニコルコン氏は連隊の一つだけでなく、水陸機動団の本部ごと辺野古に移転するよう要求している。沖縄駐留の海兵隊が今後、グアムやハワイに移動する計画があり、がら空きになる米軍基地を自衛隊に維持管理してもらうことを想定しており、今後このように動く可能性がある。

2015年の極秘合意と政府の反応

 辺野古に陸自の水陸機動団を常駐するという2015年の極秘合意につき、政府の反応はどうか。

 岸防衛相は「正式合意ではない」「さまざまなやりとりはある」「シュワブ内の陸自施設計画図があったという話はある」と答弁した。しかし菅首相は「従来より代替施設における恒常的な共同使用は考えていなかった。その考えにこれからも変更はない」と虚偽答弁している。当時の安倍政権中枢は、「辺野古への陸自施設計画の存在が広まったら、沖縄の反発は抑えられなくなる」と述べており、新基地が完成すればこの計画を推し進めようとしている。

辺野古新基地はそもそも必要か

 1996年の普天間返還合意から25年経過したが、「普天間代替施設」「海兵隊の移転先」の辺野古新基地は沖縄県民の強力な反対運動により進展していない。海兵隊は今後、グアムやハワイに移動するため、陸自幹部は「将来、辺野古は実質的に陸自の基地になる」と話している。しかし、海兵隊が使わないならば陸自のための辺野古新基地は要らないし、普天間飛行場の無条件返還も可能である。

基地の恒久要塞化

 普天間返還合意の翌年、1997年に政府が設計したのは「海兵隊用の撤去可能な海上ヘリポート」だったが、2002年には「海兵隊用の埋め立て基地」に設計変更し、今後、国際情勢の変化で海兵隊が撤去しても「自衛隊用の埋め立て基地」が残り、基地の恒久要塞化が狙われている。

無用の水陸機動団

 陸自の水陸機動団は周回遅れで海兵隊をまねたもの。オスプレイは装甲が薄く危険地帯では飛ばせない。また水陸両用車AAV7は海上では時速13㎞であり、尖閣のような岩場では上陸できない致命的な欠陥がある。役に立たない代物である。このことにつき、オーストリアの軍事研究者は「敵前上陸は時代遅れ」「水陸機動団の発足は戦略上の必要性ではなく、陸自のロビー工作の結果ではないか、と海自の幹部たちは疑っている」と報告している。

辺野古の自衛隊移管は幻想

 政治家たちは「辺野古の自衛隊移管で主権回復する」と主張しているが、米軍も自衛隊も望んでいない。日米地位協定上も辺野古の自衛隊管理には無理がある。あくまで米軍が管理し、自衛隊が使わせてもらう形を想定している。

琉球弧と土地利用規制法

 米軍・自衛隊基地や原子力発電所の周辺、国境離島などの土地の利用を規制する「土地利用規制法」が今国会で強行可決された。同法は、重要施設の周囲1㎞や国境離島を「注視区域」に指定し、土地や建物の所有者の氏名・住所・利用実態などを政府が調査することができる。この調査範囲はあいまいで、政令や閣議決定に委ねられており、思想・信条を侵害される懸念がある。特に重要な施設の周辺は「特別注視区域」として、不動産売買が規制される。米軍基地が集中し、国境離島でもある琉球弧(沖縄)は全域が「注視区域」に指定される恐れがある。土地利用規制法が施行されると琉球弧に最も大きな影響があるが、やがて全国にも波及することは必至である。

 石川県では自衛隊小松基地、志賀原発が重要施設であり、舳倉島は有人離島地域となる。原発周辺の1㎞以内が「注視区域」に指定される可能性がある。

 つながることが大事

 沖縄では島々の間に海と県境があり、市民も報道も孤立しがちだが、今回の「辺野古に陸上自衛隊」の報道は、沖縄タイムスと共同通信の合同取材によるもの。沖縄タイムスだけでは記事化できなかった話を共同通信記者と連携して報道することができた。これからますます強くなる権力と異議申し立ての声が抑えられる中、つながることが大事、束になって対抗する活動方法が求められている。

◎戦争をさせない石川の会が6月26日、金沢歌劇座2階大集会室で開いた講演会要旨です。

 阿部岳さんの講演の後、金沢市議会が6月定例会本会議で「沖縄戦戦没者の遺骨混入土砂を埋立てに使用しないことを求める意見書」を全会一致で可決したことや珠洲市在住の坂本菜の花さん(21歳)らが珠洲市議会に請願書を提出したことなど、沖縄テレビの報道も紹介され、沖縄と石川のエール交換の場になりました。

憲法改悪NO ! 市民アクション・いしかわが開いた学習会「憲法から見た菅政権」(3月20日、石川県教育会館2階会議室)

 

【講演要旨】

「敵基地攻撃」論をめぐる問題点

神戸大学名誉教授  五十嵐正博

 国連憲章第51条(1945年6月26日採択、10月24日効力発生)では、「自衛権の発動は重大な武力攻撃が発生した場合に行使する」と規定しており、日本国憲法九条(1947年5月3日施行)では、戦争の放棄、戦力及び交戦権を否認している。

 「敵基地攻撃」論の出発点

 最初に国会で敵基地攻撃について議論になったのは1956年2月28日、当時の社会党の石橋政嗣議員が自衛隊法改正にあたり「自衛権」の定義を問うた衆議院内閣委員会である。鳩山一郎首相は「自衛のためということは国土を守るということ、国土を守ること以外はできない。飛行機でもって飛び出していって攻撃の基地を粉砕してしまうということまでは今の条文ではできない」、また船田中防衛庁長官は「急迫不正な侵害を排除するためにどうしても他の手段がない、敵の基地をたたくということは自衛権の範囲内において最小限許される」と答弁している。

安保法制における集団的自衛権の行使容認と「敵基地攻撃能力」

 2013年2月7日、安倍首相は「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を設置。同年2月12日の衆院予算委員会で安倍首相は、「北朝鮮によるミサイル開発・核開発に関連して、策源地攻撃(=敵基地攻撃)と憲法との関係について、法理上では他に手段がないと認められるものに限り、敵の誘導弾等の基地を攻撃することは憲法が認める自衛の範囲内に含まれるが、現実の自衛隊の装備の在り方としては、策源地攻撃を目的とした装備体系の保有は考えていない」と従来の政府答弁を引き継いだ答弁をしている。

 しかし、この直後に渡米した安倍首相は、2月22日、日米首脳会談で安倍首相はオバマ大統領に、「集団的自衛権の検討を開始した」と報告している。帰国後の2月28日、安倍首相は衆院予算委員会で「策源地攻撃能力を米国に頼り続けてよいのかとの問題意識を示し、この議論は国際的な影響力があるので慎重に行なわれなければならないが、しっかり行う必要がある」と答弁している。

 そして2015年9月19日、戦争法=平和安全法制が可決された。2020年6月15日、河野太郎防衛庁長官が山口県と秋田県に設置を計画していた「イージス・アショア」の導入断念を表明した後、「敵基地攻撃論」が再浮上した。同年12月18日、安倍内閣は、「島嶼部を含む我が国への侵攻を試みる戦艦等に対して、脅威圏の外からの対処を行うためのスタンド・オフ防衛能力の強化が必要」と閣議決定している。長距離巡行ミサイルが必要という意味である。

 「敵基地攻撃」論の法理

 2003年1月、石破茂防衛庁長官は、自衛権の行使としての武力行使は、「おそれがあるときではだめ」だが、「被害が発生してからでは遅い」のであって、法的な構成は「着手の時期はいつか」にかかると発言している。

 国際法上で自衛権の発動には武力攻撃が発生することが必要で、武力攻撃の単なる恐れに対する先制的自衛権は認められないが、自衛権は被害が発生しておればその発動が可能である。つまり着手の時点が問題になる。

   自衛隊法76条1項1号(防衛出動)では、「首相が自衛隊に防衛出動を命じることができるのは、発生する明白な危険が切迫していると認められるにいたった事態が含まれる」と規定している。

「敵基地攻撃」論の落とし穴

 2003年、石破防衛庁長官は、「着手」について「相手国が東京を火の海にしてやるという意図を表明して、その実現のためにミサイルを屹立して燃料の注入を行うなどの準備を始めた場合」と発言している。

 2020年7月、河野防衛大臣は、「その時点の国際情勢、相手方の明示された意図、攻撃の手段、対応などによるものであり、個別具体的な状況に即して判断すべき」と発言している。要するに「着手」の客観的基準はないということ。ミサイルの「屹立」は実験や演習のためや、人工衛星の打ち上げの場合もある。IAの間違った勝手な判断でミサイル攻撃に着手してしまう危険性がある。

「策源地」の虚構

 「策源地」とは前線の作戦部隊に対して、必要物資の補給などの兵站、支援を行う後方基地である。河野防衛大臣は、「敵基地攻撃のためには移動式ミサイル発射機の位置をリアルタイムに把握するとともに地下のミサイル基地の正確な位置を把握し、まず防空用のレーダーや対空ミサイルを攻撃・無力化して相手国領空における制空権を一時的に確保したうえで、移動式ミサイル基地を破壊してミサイル発射能力を無力化し、攻撃の効果を把握した上で更なる攻撃を行うといった一連のオペレーションが必要」と述べている。つまり「敵基地攻撃」は、「基地」ないし「策源地」を対象としたものには限定されず、関連の軍事施設等に対する全面攻撃となる。

 国際法の国際人道法には、攻撃は軍事目標に限定する(区分原則=軍事目標主義)という制約がある。民間人や民間施設をミサイル攻撃することは国際法違反であり、到底許されることではない。

「安全保障環境」の虚像

政府は日本を取りまく「安全保障環境」の劇的な変化を事あるごとに説いているが、日本が「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」の保有に踏み切るなら、これが北朝鮮や中国にとっては自国の「安全保障環境」の一環の悪化と映ることが十分想像できる。

「抑止」の虚妄

 「敵基地攻撃」論は専守防衛の範囲内とされるから「攻撃」を前面に掲げるわけにはいかないと、自民党ミサイル防衛検討チームの提言(2020年8月4日)では、「敵基地攻撃」の用語を避け、「相手領域内でも弾道ミサイル等を担保する能力」の保有を認めると誤魔化している。

 1987年、国連第一回軍縮特別総会で採択された最終文書では、「真の永続的平和は、国連憲章が規定する安全保障体制の効果的な実施と軍縮と軍事力の急速かつ実質的な削減によってのみ、実現することができる」と明示されている。日本国憲法前文では、「平和のうちに生存する権利」が謳われており、日本は「人間の安全保障」を主導する立場にある。憲法学者の佐藤幸治氏は「この国際協調主義・平和主義こそ、日本国憲法最大の特徴といえるものであるが、日本国憲法が想定する「平和」は、ただ単に戦争のない状態ということではなく、自由主義(基本的人権尊重主義)が実現維持される状態ということが前提されている」と述べている。この日本国憲法を世界に広めていくことこそ求められている。

◎3月20日、石川県教育会館2階集会室で「憲法改悪NO!市民アクション・いしかわ」が開催した学習会・ディスカッションの報告要旨です。

 

 

憲法改悪NO!市民アクション・いしかわが開いた学習会「憲法から見た菅政権」(3月20日、石川県教育会館2階会議室)

 

【講演要旨】

日本学術会議任命拒否問題の背景

金沢大学名誉教授 村上清史

日本の科学技術戦略の大きな流れ

 1990年代はバブルが崩壊し、自己責任が叫ばれ、新自由主義の風潮が広がり、格差拡大が明らかになった時代です。政府は国際競争力の低下を克服するためと称して科学技術振興を謳い始め、1995年に科学技術基本法を制定し、第一期科学技術基本計画(1995年~2000年)を定めました。アメリカのレーガノミスクを真似て大学の特許、知的財産権の活用のための法整備をすすめ、大学が産業振興に貢献することを求めました。 

2003年、国立大学の法人化への移行

 第二期科学技術基本計画のとき、2003年には国立大学が法人化された以降、国立大学は運営交付金により賄われ、交付金は毎年1%づつ減額され、大学の研究力の低下が加速しています。この科学技術政策は大学を産業振興に奉仕させる施策と財政計画であり、これには人文社会系は除外されました。科学技術基本計画は5年毎に第三期、第四期と進められ、選択と集中を名目に大学を産業振興に結び付ける政策課題に大型重点投資をおこなっています。

3・11を背景に、大学に軍事研究参入を誘導

 3・11大震災以後、安全と安心を掲げて技術革新による社会変容=イノベーション政策の司令塔を強化しています。防衛省に軍事研究促進補助金制度が導入され、大学に軍事研究参入を誘導しています。これまで20年近い科学技術政策のもと、国立大学の運営交付金は15%削減され、大学評価による大学間格差は80%~120%に広がり、今後さらに60%~150%に拡大すると予想されています。国立大学は政府の政策に忠実な学長を中心に運営を進め、大型競争資金を獲得することを競っている状態です。

 結果として、特に地方の国立大学は著しい研究力の低下と教職員の荷重負担による疲弊、若手研究者の不安定雇用と貧困が進んでいます。

大きな政策転換となる第六期科学技術基本計画

 このような科学技術政策の失敗を総括しないまま、今年4月から施行される第六期科学技術基本計画では重要な政策変更が行われようとしています。

 第一に、イノベーションでこれまで除外してきや人文社会領域を含め、その貢献・参加を求めています。この背景にはスマホやネット販売、オンライン会議など社会の生活様式の変化があります。この分野の科学技術の多くは諸外国に依存しているため、日本から社会変容を起こすような技術革新のイノベーション振興には、人文社会系の研究者を取り込むことが不可欠と強く意識し始めています。

 第二は、大学に株式会社などの外部組織の設立を誘導する政策です。大学の教員が外部組織に参加し、大学のルールから外れた処遇や兼業をおこない、別に報酬を受け取るイメージです。このような政策を実現できる学長の強い権限、ガバナンスの確立を求めて大学の在り方を大きく変えようとしています。

 この二つの変化は国立大学の法人化に次ぐ重要な科学技術政策の転換です。

日本学術会議は軍事研究に非協力を保持

 今日、科学技術は相互に発展して私たちの生活や社会の在り方を変えています。この成果が国民の暮らしや生活に生かせるかどうか、世界の貧困や自然破壊を防ぐために生かせるかどうかが重要です。これまで日本学術会議は、科学の果たすべき役割を検討し、多くの成果を提言してきました。理学・工学、生命科学、人文・社会科学と異なる三つの領域の科学者が一同に組織されたアカデミーは世界でも稀です。まさに「総合的、俯瞰的」に検討をおこなえる組織です。その自主性、自律性は憲法で保障された「学問の自由」にもとづくもので、日本学術会議法で担保されているものです。

 菅総理の勝手の判断で任命を拒否することは明らかな違法行為であり、現在もなお欠員のままである責任は政府にあります。また戦争に加担した科学者の深い反省の中から誕生した日本学術会議は、軍事研究に非協力の立場を保持しています。このような立場をとっているアカデミーは世界に類を見ません。これを支えている根底は戦争放棄を謳う日本国憲法です。

 今日の日本学術会議への攻撃は、アメリカの軍事世界戦略に組み込まれ、9条改悪をねらう現政権の動きの一環です。大学や学術分野全体の枠組みを政府や財界に奉仕するシステムに変える動きのなかで、批判的或いは代替え案を研究する学者を排除しようとしているのが今回の任命拒否のねらいです。それは日本国憲法の戦争放棄と学問の自由を根底から侵害する重大な攻撃であり、国民的なたたかいが求められていると思います。

◎3月20日、石川県教育会館二階集会室で「憲法改悪NO!市民アクション・いしかわ」が開催した学習会・ディスカッションの報告要旨です。

 

 

「いしかわの戦争と平和」編集委員会が作成した『記憶の灯り 希望の宙へ』正誤表(2020年10月20日付)を紹介します。

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シリーズ戦争・学習会(第1回)>
         オリンピックと戦争
          講師 スポーツジャーナリスト  谷口源太郎

         講師の谷口源太郎さん

 東京オリンピックは根幹から揺れている。何のために東京でオリンピックを開くのか。何を目指しているのか。2020年東京大会を主導したのは森喜朗元首相である。森喜朗・東京大会組織委員会会長が考えるスポーツとは何か。森会長は「スポーツの精神は滅私奉公である」と云っている。スポーツとはお互いに理解し尊敬しあうものであり、自分を殺して公に尽すことはありえない。滅私奉公、国に奉仕することはオリンピック精神と真逆である。
 森会長はラグビーでよく使われる「オール・フォー・ワン、ワン・フォー・オール」にならって、「オールジャパン」を掲げ、2020年東京オリンピックを「国民一丸」となり、「国民総動員体制」を作り上げようとしている。このようにオリンピック精神と相反する思想のもとで東京大会を招致した。
 

 戦争によって砕かれたオリンピズム
 1925年制定のオリンピック憲章では「スポーツを通じ、相互理解の増進と友好の精神にのっとって若人たちを教育し、それによって、より良い、より平和な世界の建設に協力すること」と記載され、平和主義・国際主義を強調している。このオリンピック憲章の理念(オリンピズム)は、他の国際的なスポーツイベントにはない大きな特徴である。このオリンピズムは、戦争に対しどれだけ贖う力になっただろうか。戦争により、第一次世界大戦で1916年の第6回ベルリン大会、日中戦争で1940の第12回東京大会、第二次世界大戦で1944年の第13回ロンドン大会の3大会が中止になった。国際オリンピック委員会(IOC)はこの三大会中止の総括、自己批判をしっかりやっていない。

 東西冷戦とモスクワ大会ボイコット
 東西冷戦の時代、カーター米国大統領がソ連のアフガニスタン侵攻を理由に1980年のモスクワ大会のボイコットを呼びかけ、西ドイツ、日本など50か国が同調し、参加国は81に過ぎなかった。先の3大会中止とこの大規模ボイコットで「オリンピックは終焉した」との見方が広がった。さらにソ連をはじめ社会主義国が1984年のロスアンゼルス大会をボイコットした。また同大会はオリンピック憲章の理念を完全に放棄して、商業主義に走り、興行としての国際スポーツイベントに変質してしまった。それ以後のオリンピックは、全て商業主義(マネーファースト)でおこなわれている。
 

 国威発揚の道具にされる選手たち
 もう一つの特徴は、国威発揚を背景にした国家間のメダル競争である。メダル競争の負の遺産がドーピング問題だ。クスリで人間の限界を超える力を発揮させてメダルの獲得競争がエスカレートしている。毎回の大会で違反者が出ており、今やドーピングは押さえようがない。
 この背景にあるのが勝利至上主義、金メダルでなければ意味がない。2020年東京オリンピックの日本チームの最大の目標が(金メダル30個獲得)であり、これ以外に目標がない。ここに焦点を当ててヒト、モノ、カネを集中させている。
 このため選手は二重の意味で疎外されている。一つは商業主義のもと商品として選手はスポンサーと契約を結び、広告宣伝役を担わされている。もう一つはメダル獲得(日の丸を上げる)ために頑張ることを強いられ、国威発揚の道具にされている。このようにオリンピックが商業主義とナショナリズムに陥っていることにつき、選手たちはあまりにも無自覚ではないのか。

 安倍首相のオリ・パラ翼賛の狙い
 安倍首相が唱える「積極的平和主義」とは、改憲して自衛隊を軍隊として認め、海外派兵ができる「戦争をする国」になることである。いま中東地域に(調査・監視を名目に)自衛隊を派遣しており、他方、「福島はアンダーコントロールされている」と大ウソをついて東京オリンピックを招致した。安倍首相は、今年1月20日の施政方針演説でもすべての項目にオリンピック・パラリンピックをからませて翼賛し、国民が一体となって新しい時代(改憲)に踏み出すことを訴えた。オリンピック・パラリンピックの露骨な政治利用である。このままでは東京大会は、改憲―「戦争する国づくり」につながる恐ろしいオリンピックになる。
 

 戦争とパラリンピック
 パラリンピックも戦争と結びついている。第二次世界大戦の戦闘によって脊髄を損傷し、車椅子を使用するようになった下半身麻痺者のリハビリとしてスポーツが取り入れられた。1948年ロンドン大会の開会式に合わせて病院内でアーチェリー競技会を開催。1952年のヘルシンキ大会で「国際ストーク・マンデビル競技大会」に発展。1964年の東京大会から「パラリンピック」(パラプレジア=下半身麻痺者とオリンピックを組み合わせた日本製の造語)と呼ばれるようになった。
 障害者のためのリハビリは意味があり、日常的にスポーツができる環境整備が大事だが、国威発揚のメダル獲得に走っているのが実情だ。パラリンピックは障害者スポーツのエリート化であり、東京大会後には予算が大幅にカットされ、障害者のスポーツ環境が劣悪に、負の遺産となることが危惧される。
 

 「復興オリンピック」の名のもとに
 森会長や安倍首相は「復興オリンピック」と謳っているが、地元の人たちは決して納得していない。帰宅困難地域はどんどん解消されているが、実際に戻ってくる人は少ない。なぜなら従来あった住民の生活やコミュニティが根こそぎ壊されたからだ。
 東京大会の聖火リレーのスタート地点が福島のJヴィレッジ。このJヴィレッジは原発事故対応の拠点になったところで防護服を洗浄した大量の汚染水や、セシュウム・ボール(粒子)が空中には飛散していた。実際にJヴィレッジの近くで高濃度の放射線量が計測されている。「復興オリンピック」の名のもとにこの場所で聖火リレーをスタートさせるのは人命軽視である。3月26日、福島を皮切りに聖火リレーは全国一丸となって全都道府県をまわる。これをNHKはじめメディアが大きく取り上げる。 
 東京大会のオリンピックをNHKは連日、民放は各社日替わりで放送する。大会期間中は一日中、オリンピック番組が占め、オリンピック翼賛報道となる。「全国民一丸になって」「滅私奉公」で盛り上げていく方向につくられていくだろう。
 このようにオリンピックはいろんな問題をはらみながら国策として国家主導で大きな流れがつくられようとしている。大きな危機感を持って、批判的に注視していきたい。
  
◎2月22日、金沢市歌劇座3階大練習室で開かれた戦争をさせない石川の会の2020年学習会・シリーズ「戦争」(第1回)の講演要旨です。

 戦争をさせない石川の会が6月9日(土)午後2時から金沢歌劇座2階大集会室で東京新聞記者・望月衣塑子さんの講演会を開催します。演題は「なぜ、菅官房長官の会見に臨むのか〜進む武器輸出、もりかけ疑惑、安倍政権とメディア〜」です。望月さんは防衛省の武器輸出、武器産業などを取材していますが、記者会見で菅義偉官房長官を鋭く追究し続けている記者としても注目を集めています。案内チラシをご覧いただき、ぜひ講演会に足をお運びください。また周りの方々にも声をかけお誘いくださるようお願いします。

案内チラシ印刷用(PDF:192KB)

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