日本学術会議任命拒否問題の背景(村上清史)

憲法改悪NO!市民アクション・いしかわが開いた学習会「憲法から見た菅政権」(3月20日、石川県教育会館2階会議室)

 

【講演要旨】

日本学術会議任命拒否問題の背景

金沢大学名誉教授 村上清史

日本の科学技術戦略の大きな流れ

 1990年代はバブルが崩壊し、自己責任が叫ばれ、新自由主義の風潮が広がり、格差拡大が明らかになった時代です。政府は国際競争力の低下を克服するためと称して科学技術振興を謳い始め、1995年に科学技術基本法を制定し、第一期科学技術基本計画(1995年~2000年)を定めました。アメリカのレーガノミスクを真似て大学の特許、知的財産権の活用のための法整備をすすめ、大学が産業振興に貢献することを求めました。 

2003年、国立大学の法人化への移行

 第二期科学技術基本計画のとき、2003年には国立大学が法人化された以降、国立大学は運営交付金により賄われ、交付金は毎年1%づつ減額され、大学の研究力の低下が加速しています。この科学技術政策は大学を産業振興に奉仕させる施策と財政計画であり、これには人文社会系は除外されました。科学技術基本計画は5年毎に第三期、第四期と進められ、選択と集中を名目に大学を産業振興に結び付ける政策課題に大型重点投資をおこなっています。

3・11を背景に、大学に軍事研究参入を誘導

 3・11大震災以後、安全と安心を掲げて技術革新による社会変容=イノベーション政策の司令塔を強化しています。防衛省に軍事研究促進補助金制度が導入され、大学に軍事研究参入を誘導しています。これまで20年近い科学技術政策のもと、国立大学の運営交付金は15%削減され、大学評価による大学間格差は80%~120%に広がり、今後さらに60%~150%に拡大すると予想されています。国立大学は政府の政策に忠実な学長を中心に運営を進め、大型競争資金を獲得することを競っている状態です。

 結果として、特に地方の国立大学は著しい研究力の低下と教職員の荷重負担による疲弊、若手研究者の不安定雇用と貧困が進んでいます。

大きな政策転換となる第六期科学技術基本計画

 このような科学技術政策の失敗を総括しないまま、今年4月から施行される第六期科学技術基本計画では重要な政策変更が行われようとしています。

 第一に、イノベーションでこれまで除外してきや人文社会領域を含め、その貢献・参加を求めています。この背景にはスマホやネット販売、オンライン会議など社会の生活様式の変化があります。この分野の科学技術の多くは諸外国に依存しているため、日本から社会変容を起こすような技術革新のイノベーション振興には、人文社会系の研究者を取り込むことが不可欠と強く意識し始めています。

 第二は、大学に株式会社などの外部組織の設立を誘導する政策です。大学の教員が外部組織に参加し、大学のルールから外れた処遇や兼業をおこない、別に報酬を受け取るイメージです。このような政策を実現できる学長の強い権限、ガバナンスの確立を求めて大学の在り方を大きく変えようとしています。

 この二つの変化は国立大学の法人化に次ぐ重要な科学技術政策の転換です。

日本学術会議は軍事研究に非協力を保持

 今日、科学技術は相互に発展して私たちの生活や社会の在り方を変えています。この成果が国民の暮らしや生活に生かせるかどうか、世界の貧困や自然破壊を防ぐために生かせるかどうかが重要です。これまで日本学術会議は、科学の果たすべき役割を検討し、多くの成果を提言してきました。理学・工学、生命科学、人文・社会科学と異なる三つの領域の科学者が一同に組織されたアカデミーは世界でも稀です。まさに「総合的、俯瞰的」に検討をおこなえる組織です。その自主性、自律性は憲法で保障された「学問の自由」にもとづくもので、日本学術会議法で担保されているものです。

 菅総理の勝手の判断で任命を拒否することは明らかな違法行為であり、現在もなお欠員のままである責任は政府にあります。また戦争に加担した科学者の深い反省の中から誕生した日本学術会議は、軍事研究に非協力の立場を保持しています。このような立場をとっているアカデミーは世界に類を見ません。これを支えている根底は戦争放棄を謳う日本国憲法です。

 今日の日本学術会議への攻撃は、アメリカの軍事世界戦略に組み込まれ、9条改悪をねらう現政権の動きの一環です。大学や学術分野全体の枠組みを政府や財界に奉仕するシステムに変える動きのなかで、批判的或いは代替え案を研究する学者を排除しようとしているのが今回の任命拒否のねらいです。それは日本国憲法の戦争放棄と学問の自由を根底から侵害する重大な攻撃であり、国民的なたたかいが求められていると思います。

◎3月20日、石川県教育会館二階集会室で「憲法改悪NO!市民アクション・いしかわ」が開催した学習会・ディスカッションの報告要旨です。

 

 

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