◇講演要録◇
暴走する安倍政権と「知る権利」の危機
法政大学名誉教授 須藤春夫
1.朝日新聞の「従軍慰安婦」記事取り消し問題をどう考えるか
朝日新聞は8月5日に紙面で特集「従軍慰安婦問題を考える」を掲載、82年9月2日以降16回にわたった「慰安婦」報道のうち、吉田清治氏(故人)が朝鮮済州島で「慰安婦」狩りを行ったという本人の証言にもとづく記事を取り消すと発表しました。また、9月11日には木村伊量社長が記者会見し、「慰安婦」報道の取り消しが遅れたことなどについて謝罪しました。
朝日新聞に取材の不手際があったことは否めません。しかし、この記事取り消しをめぐって一部の大手紙や週刊誌、月刊誌そしてネット空間での朝日紙攻撃は異常ともいえるものです。安倍首相をはじめ政治家の一部には、「慰安婦」問題を朝日新聞の責任に矮小化し国会に喚問する声すらあがっています。取材手法の批判を超えて朝日新聞の歴史認識を問題視、あるいは「国益を害した」という批判、記事の取り消しで「慰安婦」問題そのものを無いものとする乱暴な意見が噴出しているのです。
言論メディアを根拠なくバッシングする行為は、記者の表現活動を萎縮させ私たちの「知る権利」を阻害させる結果をもたらします。まして朝日新聞の廃刊を主張するなど、多様な言論メディアの存在を暴力的に否定して、特定の意見のみしか認めないファッショ的なやり方です。民主主義社会は多様で多元的なメディアが存在してこそ私たちの「知る権利」に応えることができるのです。
朝日新聞へのバッシングは、安倍政権の「戦争のできる国づくり」に呼応してなされており、権力監視の役割をそれなりに担ってきた朝日新聞の力を弱めることで翼賛体制への道を準備することを意図しています。
2. 安倍政権のメディアコントロールによる「知る権利」の危機
安倍政権は、歴代自民党政権の中でもメディアコントロールによる世論操作と市民の「知る権利」を制限する戦略を周到に準備しています。その手法を列挙してみます。①日本最大のメディアであるNHKを支配するために、放送法の不備を利用して経営委員会を安倍勢力で固めNHK会長を官邸筋で選任、②メディア幹部との会食。読売新聞、産経新聞,フジテレビなど特定のメディアを選別して優遇(首相との度重なる会食や情報のリーク:13年8月の小松法制局長官就任を読売・産経両紙だけにリーク)、③言葉による事態の本質隠し:日米同盟強化が本質の「集団的『他衛』権」を「集団的『自衛』権」とする。武器輸出禁止三原則→防衛装備移転三原則など、④特定秘密保護法の制定は、法制度によって国家秘密を市民の「知る権利」から遠ざける、などです。
すでにNHKの報道番組には、権力迎合の影響が出ているといえます。市民組織の放送を語る会が実施した集団的自衛権に関するNHK、民放キー局ニュース番組のモニター調査結果は、テレビジャーナリズムに深刻な亀裂を生んでいます。曲がりなりにもジャーナリズム本来の目的にそって報道しようとする番組と、政府広報に近い番組との鋭い分岐です。新聞メディアですでに顕著なこの「二極対立」がテレビでもかつてなく鮮明になっています。
〇ジャーナリズム型:「報道ステーション」テレビ朝日、「NEWS23」TBS
〇政府広報型:「ニュース7」「ニュースウオッチ9」NHK、「ウエークアップ!ぷらす」読売テレビ(日本テレビ系列)、「新報道2001」フジテレビ
参考までに、新聞の場合は次のように二極化されています。
〇ジャーナリズム型:朝日、毎日、東京・中日・北陸中日、地方紙の大部分
〇政府広報型:読売、産経、北国、福島民友
安倍政権は主要なメディアが「二極分化」して権力監視が弱体化している現状を利用して「戦争のできる国」へと歩を進めているのです。
3. 私たち自身が問われている
言論メディアと言論表現の自由は、民主主義社会にとって不可欠の存在です。市民はメディアが権力監視の役割をはたすよう、メディア批判と激励が大事です。また、政府が法制度によって市民の「知る権利」を制限しようとする企みも許してはなりません。
*本稿は戦争をさせない石川の会が2014年9月25日、金沢市近江町交流プラザで開いた講演会の講演要録です。講師の須藤春夫・法政大学名誉教授にまとめていただきました。


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