孫崎享・講演要録「安倍政権のねらう戦争法制の危険性」

  戦争をさせない石川の会が5月23日、県教育会館3階ホールで開いた第3回講演会「安倍政権のねらう戦争法制の危険性」の講演要録を紹介します。講師は元外務省国際情報局長の孫崎享さんです。

 

●演題 安倍政権のねらう戦争法制の危険性

●講師 元外務省国際情報局長 孫崎享さん

孫崎享 講演会写真 

 病めるメディア

 私は防衛大学校にいました。そこで大切なことは手を挙げることなので、今日もそれで進めます。

 天皇が80歳の誕生日を迎えた時の発言で、「占領下にあった日本は、平和と民主主義を守るべき大切なものとして憲法を作りました。」と述べたことをご存知の方は挙手願います。(間)約半分おいでますね。しかしもし皆さんが情報をNHKに頼っていたら、その部分は実際には省かれていたのです。

 更にお聞きします。先の戦争を侵略戦争であると定義していいのか否か。いいと思う方は挙手願います。(間)ここはかなり偏った人たちの集会ですね(笑)。ところが安倍氏の周辺は違うのです。

 ポツダム宣言の件では先日、党首討論で重要なことが明らかとなりました。首相はコメントを避けたのです。ポツダム宣言はカイロ宣言の履行を前提としています。すなわち「日本国ノ侵略ヲ制止シ」ということですから侵略戦争だったことを認めることが前提です。それを首相は避けた、つまり侵略戦争だと認めなかったのです。

 問題はそこに止まりません。メディアはそれを報道せねばならないのに、テレビについては一社を除いて報道しなかったのです。

 『国境なき記者団』が各国の報道の自由度のランキングを毎年発表しています。日本は何位でしょうか。(間)日本は民主主義国家といっているのに61番目です。私たちはあまりにも危機感がない。依然として我々は大手メディアに情報を依存しています。そんな結果になる理由があるのです。

 一つは原発関連です。高浜原発の運転を禁ずる仮処分が出されました。この差し止め訴訟は基準地振動という概念をもって行いました。説明できる人は挙手願います。(間)それは想定最大振動(700から1000ガル)です。そのレベルの耐震構造が問われます。しかし20か所にも満たない原発のうち4つの原発に、2005年以降5回にわたりそれを超える地震が起きています。そのような重要な概念なのに、殆ど知られていません。そして官房長官や規制委員長の「世界一厳格だから大丈夫」という説明を鵜呑みにして報道しています。

 また天皇は今年の年頭にあたり「この機会にAを学び、Bを考えていくことが大切」と述べましたが、このA・Bを言える方、挙手願います。(間)天皇は「満州事変に始まるこの戦争の歴史」を学び、「今後の在り方」を考えて、と述べたのです。いま日本は先の大戦前と似通ってきています。

 あの大戦前、もし開戦すれば日本にとって破滅的な結果になるのは誰が見ても分かっていたのです。そして310万人亡くなりました。しかし不思議なことに、なぜこうなったかを考えないのです。これが問題なのです。なぜ歴史を学ぶのか。我々は未来を考えるために過去に学ぶのです。

 1945年にトルーマン米大統領は、日本の戦争突入判断の根拠を調査するよう命じました。その結果は、「日本中枢は、日米は軍事・経済格差は1対17ではあるが、民主主義国としての米国は戦争を継続することは出来ないから、欲するところ全てを手中に収めることが可能と判断していた」というものでした。日本は国内向けには全く違ったことを言って戦争に突入したのです。ウソと詭弁を弄して重要なことは言わないのは今の安倍政権も同じです。今しなければならないのは、安全保障であれ原発であれTPPであれ、連携してこのおかしさを正すことなのです。

 このように、権力の言うことを鵜呑みにして重要なことを報道せず、ウソと詭弁を正さないジャーナリズムになっているから、国際社会で評価されないのです。

  「緊張」の陰で

 次に、憲法九条と集団的自衛権の問題について述べますと、私は元内閣法制局長官に注目しています。彼は「集団的自衛権を〝自衛権〟というから、自国自衛権の一種ではないかと考えてしまう人が多い。しかし個別自衛権と全く異なり、日本防衛と無関係」と述べています。もし米国の戦略のために行使するなら、日本はその正否を独自に判断せねばなりませんが、その保証は何もないのです。

 中国脅威論については、中国は現在の世界秩序で繁栄しているので、それを破壊しては台無しです。「攻めてきたらどうする?」と言う人がいますが、むしろその陰で次から次へと民主的な日本を自ら破壊しているのが実態です。

 世界の安全保障の趨勢を見ると、戦争をしない方向にあるのです。もはや超大国間の戦争は絶対できません。核兵器は実際には使えないのです。尖閣で何かあっても米国は助けに来ません。日米ガイドラインは、当初の島の防衛は日本が行うことになっているのです。

 「尖閣の緊張を利用し、日米強化の米国考察」を見て下さい。ワシントンの狙いを端的に示しています。それは、①東京はより大きい国際的任務を、②同盟国(米国)の安全保障の必要に見合う防衛費支出の増大を、③集団的自衛権により柔軟な憲法解釈をさせて効果的貢献を、④沖縄の普天間代替施設の建設を等、まるで思惑通りになっているのです。

 また経済についてですが、日本は底辺の水準を上げることによって発展してきました。しかし米経済は一部の人がGDPの殆どを持つようになり、それで一般国民の没落により経済が停滞したのです。日本の社会も同様になりつつあります。原発についても電力会社とそこに融資する銀行以外、再稼働の動機は持ち得ません。ちなみに福島事故の時、米軍は危ないから30㎞圏内に入っていないのです。東京からも外国人は皆逃げたのです。かなりの大使館は大阪に移動したのです。

 非戦は明確な利益

 このような深刻な状況下にあって、私たちはどういう社会を作ったらよいのでしょうか。

 まず「リアリズムから集団的相互依存へ」を見て下さい。この場合のリアリズムというのは国境線を重視し、場合により軍事衝突も辞さない立場です。イスラエルとシリア、インドとパキスタンの関係です。他方、米国とカナダ、フランスとドイツはお互いの相互依存関係があまりにも緊密になったから、今や戦争の可能性はありません。ところがよくみると、経緯があるのが分かります。これは偶然ではなく、「憎しみ合い」から「協力による実利」を明確にすることによって成り立ちました。

 であれば東アジアでも同様な関係を模索すべきです。日本と中国、日本と韓国、お互いの様々な協力関係を推進することによって、愚かしい戦争をするよりも利益がある形をとるべきだ、というのが東アジア共同体形成の考え方です。

 その時にすぐ出てくるのは、「欧米は可能かも知れないが、東アジアは宗教など共通のものがないから不可能」という考え方です。

 しかしASEANは多様性の中に紛争回避の道を探っているのです。宗教、政治体制、地域の不安定性等があれども、紛争をしないという目的のためにASEANがあり、それが機能しているのです。だったらどうしてそれを東アジアに拡げられないのでしょうか。

 ドイツ駐留NATO軍地位補足協定において、ドイツの利益が軍駐留よりも大きいときは返還(撤兵)すると定めています。何故日本ではこれが不可能なのですか。

 ウズベキスタンが独立して真っ先にやったことはロシア軍の撤兵でした。帰らざるを得ないのです。今の日本はどうなのですか。

 BBCの調査で「世界で最も望ましい国はどこか」〇六年から一二年まで日本は何回世界一になったでしょうか挙手願います。(間)なんと4回もあるのです。世界中で午後11時以降女性が一人で歩ける国などありません。今のところ皆保険で医療機関にもかかれます。それで世界一の長寿国になっているのに、TPPで狙われてそれを捨てようとしているのです。

 豪州の金融企業が年金指数を出しています。充分であるか健全であるか、各国を評価しています。1位はデンマーク、2位はオランダと続きますが、日本は中国の次です。持続可能性としては100点中、わずか29点なのです。年金システムが揺らいでいるのです。皆さんはいいですよ(笑)。

 解決は簡単です。オスプレイ購入を一七機止めればよいのです。日本の兵器はほとんど意味がないのです。実は米国がいないと動けないのです。

 そもそも核兵器を持つ中国と戦争などできないのです。だったら平和的共存を考えるのが当然なのです(拍手)。そしてその道は可能なのです。それをわざわざ捨てているのです。一体何のために。

 それは緊張を煽って日本に軍備をさせて米国のために働かせるためです。なんでこんな国になったのでしょうか。今は損することばかりなのです。本当に危険な状態になりました。

 何とか止めねばなりませんが、それはいろんな人ととにかく連携していくことです。

  人の行動がカギ握る

 最後に述べたいことがあります。ご承知のように「ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった…… そして、彼らが私を攻撃したとき 私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった」という詩があります。

 考えてみると民主主義というのは誰かに与えられるものではありません。一人ひとりの働きかけによって勝ち取ってきたものです。一旦取ったものも、絶えずそれを維持する努力が必要なのです。

 浜岡原発再稼働も辺野古基地建設も市民の反対でおそらく困難でしょう。一人ひとりができる分野で頑張ることが、物事の成否を決める時代なのだということを強調して終わります。(拍手)

 

 (注)この講演要録は非核の政府を求める石川の会会報「非核・いしかわ」に掲載するために同会編集部が作成したものです。同会から情報提供していただきました。

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