『記憶の灯り 希望の宙へ』刊行にあたって

 過ちを繰り返さないための、想像力

 戦争の痕跡をたどり、悲惨な記憶を学び、未来へ手渡すために

いしかわの戦争と平和 編集委員会

 いまも世界には戦争が絶えません。紛争を武力で解決しようとする政治勢力が力を増しており、それを支持する民衆の動きもあります。日本も例外ではありません。平和憲法を敵視して歴史の歯車を逆回転させる動きは戦後すぐに始まり、いまも続いています。
 安倍晋三政権は、日本国憲法が禁止する集団的自衛権行使を可能とする憲法解釈を強行、安保法制まで作りあげたうえに憲法9条を改憲し戦争のできる国への総仕上げを目指しています。
 私たちはこのような動きに強く反対します。国際社会も紛争は平和的に解決すべきとの声が高まりつつあります。この流れをいっそう確かなものとするには、過去の戦争の痕跡をたどり、その悲惨な記憶を学び、過ちを再び繰り返さないようひとりでも多くの人が自覚することではないでしょうか。
 石川県の平和運動はこの取り組みを早くから進め、県内に数多く残る戦跡や軍事基地をめぐる平和ガイドを行ってきました。その一環として石川県平和委員会は『石川県平和ガイドMAP』(2000年)、『石川県平和ガイドMAP No.2 戦争と金沢』(2007年)を刊行しています。すでに最初の発行から20年が過ぎ、運動を進める中で県内の戦跡や戦争資料の調査・収集も進んできました。『平和ガイドMAP』の内容をいっそう豊かにする条件もそろい、誰もが手に取って戦争の記憶を学ぶことができる冊子に改訂する必要を感じていました。
 戦跡をたどる意義は、戦争の痕跡を自分の目で確認し、そこにまつわる悲惨で残酷な結末への想像力を働かせる場となるからです。本書で戦跡の所在を地図で掲載したのも、その現場を訪ねてほしいという思いのためです。
 本書で取り上げた戦跡は、戦場に直結した軍事施設だけにとどめていません。とくに日本が国民総動員体制をとったことから、天皇を中心とする政治・軍事体制による国民生活への痕跡も戦跡として掲載しました。
 戦争の現場は戦地にあるだけでなく、銃後といわれた日常生活そのものが戦争であったことを知ってほしいと思います。
 日本が引き起こした戦争は、敵方への加害と、敵方から受けた被害との両方を生みだしました。ところが、戦争被害は強調されるものの加害について正面から向き合うのを避ける傾向にあります。加害は戦地だけで起こるものではなく、占領地から地域住民を日本へ強制連行する行為も含みます。本書は加害の事実も目を背けることなく記録しました。
 日本国憲法前文には「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し」とあります。戦争への深い反省から生まれた日本国憲法には、戦争が政府の行為であると明確に指摘しています。政府の行為を監視するには、戦争の記憶を風化させることなく平和の意義を絶えず対置する作業が必要です。本書は平和を希求するさまざまな活動にまで触れました。戦争に歯止めをかけるうえで市民社会の運動の役割に着目したからです。
 本書の刊行が、私たちの足元にある戦跡の存在を深く自覚する契機となると同時に、戦争の記憶を次の世代に引き継ぐ一助となるのを願っています。

関連リンク

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安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める!いしかわ市民連合

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