3月18日、共謀罪法案シンポジウム 報告要旨

 共謀罪法案シンポジウム・報告

 戦争をさせない石川の会が3月18日、近江町交流プラザ4階集会室で開いた「共謀罪法案シンポジウム」のパネリスト3人の報告要旨を紹介します。

 

(報告1)共謀罪と東京オリンピック

谷口源太郎(スポーツ・ジャーナリスト)

 安倍首相は今国会で「共謀罪を成立させて国際組織犯罪防止条約を締結しなければ東京五輪は開けないと言っても過言でない」と強調した。これはIOCの規定にもない全くのデマです。安倍首相はなぜこのような主張をするのか、その狙いは何か。

 2011年11月にスポーツ基本法が成立した。1964年の東京五輪のときもその3年前にスポーツ振興法が成立したが、その内容は東京五輪に向けて国を挙げての選手強化だった。ところがスポーツ基本法は国家プロジェクトとして「スポーツ立国」をめざすこと、このために国際的なイベントを積極的に誘致することを謳っている。五輪はその最たるものでこれがスポーツ基本法の本質である。

 五輪憲章ではオリンピックの目的は、個人とチームの間で行われるものであって、国家間で行われるものではない、とナショナリズムを排除している。しかし現在、この五輪憲章は骨抜きになっており、国威の発揚による各国のメダル競争になっている。

 2020年東京五輪組織委員会の森喜朗会長と安倍首相のコンビは、オールジャパン体制(国策への反対を排除して、国民総動員体制)への足掛かりとして東京五輪をめざしているのは明らかだ。国益のため東京五輪開催に文句を言わせない社会づくりとして共謀罪を成立させようとしている。「何のため、誰のためのオリンピック開催か」を問い直すべきだ。

 メディアは五輪が持つ問題点を伝えていない。先日、NHK解説員が「リオ五輪の成果」として①国威の発揚、②国際的な存在感、③経済的効果、④組織改革、⑤スポーツ文化の継承を上げていた。〝国威の発揚〟を一番に上げている。五輪憲章には「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てること」が謳われているが、昨今では国家間のメダル競争、勝利至上主義、さらには巨大資本のコントロールのもとに五輪大会が開かれている。共謀罪に反対する人たちの中にも五輪はよいものという意識が広がっているが、東京五輪と共謀罪がどのような関わりがあるのか理解していただきたい。

 

(報告2)泊・横浜事件と言論弾圧

向井嘉之(ジャーナリスト)

 泊・横浜事件は、戦前の治安維持法により編集者や研究者が60人以上、逮捕された一大言論弾圧事件である。この時代背景には1917年ロシア革命、1918年米騒動、1922年日本共産党が非合法に結成され、1923年関東大震災が発生するなかで、1925年治安維持法が制定された。

 最初の治安維持法は、国体(天皇制国家体制)の変革を目的とした結社を組織する行為に対する処罰(10年以下)だったが、度重なる法改正でなし崩し的に捜査対象が拡大した。1928年の緊急勅使による改正で国体変革目的の結社の組織は最高刑(死刑)にした。このとき現在の共謀罪と同じように「結社ノ目的遂行ノ為ニスル行為」も同等に処罰する(目的遂行罪)が設けられた。さらに太平洋戦争を始めた1941年に全面改正された治安維持法は、国体の変革結社を支援する結社、組織を準備する目的の結社(準備結社)、さらにその目的遂行行為も処罰の対象とした。この法律にもとづき最初にでっち上げたのが泊・横浜事件である。

 事件の端緒になったのは1942年9月14日、雑誌『改造』に「世界史の動向と日本」を発表した評論家の細川嘉六が治安維持法で検挙されたこと。同年7月3日~5日、細川の故郷、富山県泊町(現・朝日町)の旅館で開かれた「世界史の動向と日本」出版記念会が「共産党再建準備会」とでっち上げられ、イモずる式に60人以上が逮捕され、拷問で自白を強要して4人が獄死、32人が有罪判決を受けた。

 今国会に提出されようとしている共謀罪は、犯罪行為がなくても計画や準備、共謀の合意があれば捜査できる。このねらいは国民の権利運動の抑圧であり、市民運動への恣意的な取り締まりが公然と行われる。共謀罪が「平成の治安維持法」と云われる所以である。

 いま安倍首相も同じことを云っているが、治安維持法ができたときは「一般市民には何の関係もない」と云われていた。しかし一旦、法律ができると次々に改正され、共産党員、共産党シンパ、外郭団体、労働組合など捜査対象が広がっていった。石川県でも川柳作家の鶴彬が治安維持法違反で逮捕されている。このような法律は運用があいまいであり、現代社会ではライン・電話・室内盗聴などの傍受が横行する恐れがある。東京五輪と共謀罪は何の関係もないが、「治安」を口実に何も文句を云わない社会づくりが共謀罪の一番のねらいである。

 戦前の3悪法は軍機保護法、国防保安法、治安維持法。現代の3悪法は特定秘密保護法、安保法制、共謀罪である。これが揃えば「戦争する国づくり」が一気に進む。この法案は絶対に阻止しなければならない。

 

(報告3) 「共謀罪」の危険性

     ~近代刑法の原則、犯罪捜査の観点から~

宮西 香(弁護士)

 最初に近代刑法の原則を理解していただいたうえで、「共謀罪」の問題点についてお話しする。

 犯罪とは、①構成要件に該当する②違法かつ③有責な行為であり、法益(法律によって保護される利益)を侵害し、または危険に陥れる行為である。構成要件とは、刑罰法規に規定された個別的な犯罪の類型。犯罪が成立するためには、まず行為がこの構成要件に該当することが必要である。例えば刑法第235条(窃盗罪)では「他人の財物を窃盗したものは10年以下の懲役又は50万円の罰金に処する」と定められている。このように現行刑法は、行為のうち、法益侵害又はその危険性のあるものを個別・具体的に抽出し、処罰の対象となる行為とそうでない行為を明確に区分している。

 また現行刑法では、①既遂処罰の原則:一般に刑罰の対象を「既遂」に限定し、一部の犯罪を例外的に「未遂」で処罰し、さらに一部の重大犯罪のみを「予備」で処罰するという体系をとっており、②行為処罰の原則(思想不処罰の原則):人の思想や内心を処罰の対象にしていない。

 今回の共謀罪=組織的犯罪処罰法改正案(6条2項)では、「組織的犯罪集団により行われる重大な犯罪実行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかにより準備行為が行われたとき」処罰の対象になる。この「組織的犯罪集団」の定義があいまいで、権力の恣意的判断で一般市民も対象になる恐れがある。「計画」は外部からうかがいしれない。「準備行為」を限定することも困難である。「その計画をした者のいずれかにより」では準備行為をしないものも罰せられてしまう。しかも対象となる罪が227もある。既遂処罰が原則の現行刑法の体系を根底から変容させる重大な問題がある。

 共謀罪の捜査はどのように行われるのか。「計画」(合意)に関する捜査手法は、会話、電話、メール等の人の意思を表明する手段及び人の位置情報等を収集することになる。つまり内心の自由を侵害する。

「計画」にもとづき「準備行為」がなされれば処罰の対象になる。これまでは犯罪の結果があって容疑者の捜査が開始されているが、共謀罪では「計画」の段階から捜査が行われる。犯罪の予防と犯罪の捜査の境目があいまいであり、警察は目を付けた団体を日常的に監視することになる。気が付いたときに手遅れにならないように、一人ひとりが工夫して発信していこう。              

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