「進む要塞化 琉球孤の今ー日米軍事化のはざまで」(阿部岳さん)

講演要旨

「進む要塞化 琉球孤の今 ― 日米軍事化のはざまで」

沖縄タイムス編集局次長 阿部 岳

「辺野古に陸上自衛隊」を常駐

 2015年に陸上幕僚長・岩田清文陸将と在日米海兵隊司令官・ニコルソン中将が、辺野古新基地に陸上自衛隊(以下 陸自)の離島専門部隊「水陸機動団」を常駐することを極秘合意していたことを6年経った今、沖縄タイムスと共同通信の合同取材で明らかになった。この水陸機動団とは、「劣閣有事」を念頭に離島奪還を任務として2018年に創設した「日本版海兵隊」である。現在は650人規模の連隊が二つあり、2024年3月末までに三つ目の連隊を長崎に創設する。

 陸自は、水陸機動団の編成を検討し始めた2012年から連隊の一つを劣閣に近い沖縄に置くと決めていた。陸自幹部は、オスプレイと水陸両用車が使えて米海兵隊と合同訓練ができる辺野古新基地は「条件がそろっている」と述べている。

 一方、米海兵隊が陸自の水陸機動団を受け入れたのは、「カウンターパート」がほしいからだ。米4軍のうち他の3軍は中枢部隊が自衛隊と同居している。

 米陸軍=陸自/座間基地

    米海軍=海自/横須賀基地

    米空軍=空自/横田基地

 ニコルコン氏は連隊の一つだけでなく、水陸機動団の本部ごと辺野古に移転するよう要求している。沖縄駐留の海兵隊が今後、グアムやハワイに移動する計画があり、がら空きになる米軍基地を自衛隊に維持管理してもらうことを想定しており、今後このように動く可能性がある。

2015年の極秘合意と政府の反応

 辺野古に陸自の水陸機動団を常駐するという2015年の極秘合意につき、政府の反応はどうか。

 岸防衛相は「正式合意ではない」「さまざまなやりとりはある」「シュワブ内の陸自施設計画図があったという話はある」と答弁した。しかし菅首相は「従来より代替施設における恒常的な共同使用は考えていなかった。その考えにこれからも変更はない」と虚偽答弁している。当時の安倍政権中枢は、「辺野古への陸自施設計画の存在が広まったら、沖縄の反発は抑えられなくなる」と述べており、新基地が完成すればこの計画を推し進めようとしている。

辺野古新基地はそもそも必要か

 1996年の普天間返還合意から25年経過したが、「普天間代替施設」「海兵隊の移転先」の辺野古新基地は沖縄県民の強力な反対運動により進展していない。海兵隊は今後、グアムやハワイに移動するため、陸自幹部は「将来、辺野古は実質的に陸自の基地になる」と話している。しかし、海兵隊が使わないならば陸自のための辺野古新基地は要らないし、普天間飛行場の無条件返還も可能である。

基地の恒久要塞化

 普天間返還合意の翌年、1997年に政府が設計したのは「海兵隊用の撤去可能な海上ヘリポート」だったが、2002年には「海兵隊用の埋め立て基地」に設計変更し、今後、国際情勢の変化で海兵隊が撤去しても「自衛隊用の埋め立て基地」が残り、基地の恒久要塞化が狙われている。

無用の水陸機動団

 陸自の水陸機動団は周回遅れで海兵隊をまねたもの。オスプレイは装甲が薄く危険地帯では飛ばせない。また水陸両用車AAV7は海上では時速13㎞であり、尖閣のような岩場では上陸できない致命的な欠陥がある。役に立たない代物である。このことにつき、オーストリアの軍事研究者は「敵前上陸は時代遅れ」「水陸機動団の発足は戦略上の必要性ではなく、陸自のロビー工作の結果ではないか、と海自の幹部たちは疑っている」と報告している。

辺野古の自衛隊移管は幻想

 政治家たちは「辺野古の自衛隊移管で主権回復する」と主張しているが、米軍も自衛隊も望んでいない。日米地位協定上も辺野古の自衛隊管理には無理がある。あくまで米軍が管理し、自衛隊が使わせてもらう形を想定している。

琉球弧と土地利用規制法

 米軍・自衛隊基地や原子力発電所の周辺、国境離島などの土地の利用を規制する「土地利用規制法」が今国会で強行可決された。同法は、重要施設の周囲1㎞や国境離島を「注視区域」に指定し、土地や建物の所有者の氏名・住所・利用実態などを政府が調査することができる。この調査範囲はあいまいで、政令や閣議決定に委ねられており、思想・信条を侵害される懸念がある。特に重要な施設の周辺は「特別注視区域」として、不動産売買が規制される。米軍基地が集中し、国境離島でもある琉球弧(沖縄)は全域が「注視区域」に指定される恐れがある。土地利用規制法が施行されると琉球弧に最も大きな影響があるが、やがて全国にも波及することは必至である。

 石川県では自衛隊小松基地、志賀原発が重要施設であり、舳倉島は有人離島地域となる。原発周辺の1㎞以内が「注視区域」に指定される可能性がある。

 つながることが大事

 沖縄では島々の間に海と県境があり、市民も報道も孤立しがちだが、今回の「辺野古に陸上自衛隊」の報道は、沖縄タイムスと共同通信の合同取材によるもの。沖縄タイムスだけでは記事化できなかった話を共同通信記者と連携して報道することができた。これからますます強くなる権力と異議申し立ての声が抑えられる中、つながることが大事、束になって対抗する活動方法が求められている。

◎戦争をさせない石川の会が6月26日、金沢歌劇座2階大集会室で開いた講演会要旨です。

 阿部岳さんの講演の後、金沢市議会が6月定例会本会議で「沖縄戦戦没者の遺骨混入土砂を埋立てに使用しないことを求める意見書」を全会一致で可決したことや珠洲市在住の坂本菜の花さん(21歳)らが珠洲市議会に請願書を提出したことなど、沖縄テレビの報道も紹介され、沖縄と石川のエール交換の場になりました。

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